大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)1596号 判決
原告
長浜昭三郎
原告
岩永義美
原告
藤川清俊
原告
河野友紀
原告
松本盛勇
原告
赤松運洋
原告
田口球城
原告
山本進
右原告ら訴訟代理人弁護士
内山正元
同
細見茂
同
大音師建三
被告
立正運送株式会社
右代表者代表取締役
山嵜慶一
右訴訟代理人弁護士
中山晴久
同
夏住要一郎
同
間石成人
右当事者間の頭書請求事件について、当裁判所は、昭和五八年四月一九日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。
主文
一 被告は、次記原告らに対し、それぞれ次記金員と、その半額に対する昭和五四年四月八日から支払済まで年五分の割合による金員とを支払え。
記
原告長浜に対し 金六一三〇円
原告岩永に対し 金二万五二一二円
原告藤川に対し 金一万一五七二円
原告河野に対し 金一万五一〇六円
原告松本に対し 金一万四四六〇円
原告赤松に対し 金四万四四一二円
原告山本に対し 金七〇一六円
二 原告田口の請求、および、その余の原告らのその余の請求を、いずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
一 申立
1 原告ら
(一) 被告は、次記原告らに対し、それぞれ次記金員と、その半額に対する昭和五四年四月八日から支払済まで年五分の割合による金員とを支払え。
記
原告長浜に対し 金六五万四五八六円
原告岩永に対し 金九五万六五九八円
原告藤川に対し 金四三万五四七〇円
原告河野に対し 金四九万八二二八円
原告松本に対し 金三六万九五三四円
原告赤松に対し 金二一万九二八二円
原告田口に対し 金二六万六一二〇円
原告山本に対し 金六一万〇三一二円
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決、並びに仮執行宣言。
2 被告
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決。
二 主張
1 原告らの請求原因
(一)(労働条件等)
原告らは、いずれも、被告と雇用契約を結んで、運送業を営む被告のトラック運転手として勤務したものであるが、その労働条件は、次記のとおりであった。
記
(1) 原告らの賃金は日給制であり、後記(二)の各長距離運送勤務日における当該原告の日給額は、別紙(略)割増賃金表(原告ら計算分)所定欄各記載の額であった。
(2) 原告らの所定労働時間は、被告の当時の就業規則所定のとおり、始業午前八時終業午後五時、内休憩一時間で実働八時間、であった。
(二)(長距離勤務日の勤務時間)
原告らは、別紙割増賃金表(被告計算分)所定欄記載の日に、同表所定欄記載の行先への配送を行なういわゆる長距離運送の勤務に就いた。
右長距離勤務日の勤務の開始時刻は、別紙割増賃金表(被告計算分)所定欄記載の入場時刻(タイムカードに打刻された入場時刻)であり、終業時刻は、早くとも就業規則所定の午後五時であり、この間に、休憩時間に価する自由使用可能な時間は、存しなかった。
(三)(深夜時間外勤務時間とその割増賃金の計算)
右各長距離勤務日の当該原告の勤務時間のうち、右各勤務開始時刻(タイムカード打刻の入場時刻)から就業規則所定の始業時刻午前八時までの間は、時間外勤務であり、内午前五時以前の時間は、深夜勤務でもあり、その各時間数と、別紙割増賃金表(原告計算分)所定欄記載の時間数のとおりであった。
右深夜時間外勤務に対する労働基準法所定の割増賃金は、前記二の日給額(所定内八時間労働分)に同法三七条所定の割増計算をしたものとなり、その額は、同表深夜残業手当欄各記載の額である。
(四)(本訴請求)
よって、原告らは、各原告の右各長距離勤務日ごとの労働基準法所定の右割増賃金から、被告がいわゆる係数制による歩合給として当該長距離勤務につき支給済の金額(別紙割増賃金表(原告計算分)所定欄記載の額)を控除した残額を、各原告ごとに合計した金額相当額の当該原告の深夜時間外割増賃金未払金と、その遅延損害金(訴状送達の翌日起算、民法所定の年五分の割合によるもの)、及び、右深夜時間外割増賃金未払金についての労働基準法一一四条所定の附加金として、それぞれ被告に対し、原告らの申立(一)記載のとおりの金員支払を求める。
2 請求原因に対する被告の認否
請求原因(一)(労働条件等)については、(2)の内の、原告らの長距離運送勤務日の所定勤務時間が当時の就業規則所定の勤務時間であった点を否認し、その余は認める。
同(二)(長距離勤務日の勤務時間)については、原告らの長距離運送勤務日の就業時刻が午後五時であった点、当該日の勤務に、休憩時間が存しなかった点、を否認し、その余は認める。
同(三)(深夜時間外勤務時間とその割増賃金の計算)については、争う。
同(四)(本訴請求)は、争う。
3 被告の抗弁等
(弁済)
(一)(労働基準法所定の割増賃金額の計算)
(1) 被告においてトラック運転手が長距離運送の勤務に従事する日の勤務時間は、当該長距離運送に出発した時刻(即ち、タイムカードに打刻された入場時刻、通常午前五時前)を勤務開始時とし、右長距離運送から帰着後(更に近距離運送に従事するときはその終了後)の退場時刻(即ち、タイムカードに打刻された退場時刻、通常午後五時前)を勤務終了時とするのが、当時の労働慣行であった。
(2) そして、この間の右休憩時間は、当時、次の〈1〉乃至〈3〉のとおりであった。
〈1〉 就業規則所定の休憩時間 一時間
但し、配送先がフェリーに乗船する徳島・鳴門のとき、及び、他の配送先で退場時刻が正午以前のとき、を除く。
〈2〉 食事休憩時間 三〇分または一時間
配送先への往復運行距離が四〇〇キロメートル未満のとき三〇分、同四〇〇キロメートル以上六〇〇キロメートル未満(福山・水島・福井等)のとき一時間。
〈3〉 フェリー乗船中の休憩時間 片道につき一時間五〇分
配送先が徳島・鳴門のとき、和歌山・小松島間のフェリー乗船時間片道二時間のうち、下船準備時間帯として一〇分を控除した時間。なお、鳴門の往路の乗船時間のみ、午前五時前である。
(3) 従って、右長距離勤務日の実働時間は、右タイムカードの入場時刻から退場時刻までの時間から、右休憩時間を除いた時間であり、そのうち、所定の八時間を超える分が時間外勤務、午前五時以前の分が深夜勤務、の各時間数となる。
(4) これを、原告らの前記長距離勤務の日についてみると、当該原告の当該日における入・退場時刻(タイムカードの打刻時刻)、休憩時間数、深夜・時間外の各勤務時間数、は、別紙割増賃金表(被告計算分)の各所定欄に各記載のとおりの時間数となり、右勤務時間数に従った労働基準法所定の割増賃金額は、同表所定欄各記載のとおりの額となる。
(二)(長距離係数制及び近距離時間外計算による支払)
(1) 被告は、当時、トラック運転手の長距離勤務の日の賃金については、各人の所定日給の外、長距離の配送先ごとに標準所要時間に応じて予め設定してある係数を右日給額に乗じて算出する長距離係数制割増賃金と、長距離運送から帰社後に近距離運送に従事した場合のその時間数を時間外勤務と看なして算出する近距離時間外割増賃金とを支払っていた。
なお、長距離運送につき、交通渋滞等で右標準所要時間以上を要したときには、被告は、現実の労働時間に対する労働基準法所定の割増賃金額を下回らないように、所定係数に適当な係数を加えて、右長距離係数制割増賃金を算出し支給していた。
(2) 被告は、原告らの前記長距離勤務の日の賃金として、当該原告に対し、各人の所定日給の外、右方式による右長距離係数制割増賃金と右近距離時間外割増賃金とを、別紙割増賃金表(被告計算分)所定欄各記載の金額のとおり支払った。
(三)(未払賃金の不存在)
(1) 原告らの右長距離勤務の日の割増賃金について、被告が当該原告に支給した割増賃金額(右(2)の各割増賃金の合計額)と労働基準法所定の割増賃金額(右(1)の計算額)との差額は、別紙割増賃金表(被告計算分)所定欄各記載の額(但し、同表差額欄に▲印を付した額は支給不足額)となる。
(2) 従って、被告は原告らに対し、右支給不足額の生じた極く一部を除き、右長距離勤務の日の深夜時間外割増賃金として、労働基準法所定額以上のものを支給済であり、右支給不足額の生じた場合についても、当該原告の当該長距離勤務の日をふくむ一ヵ月分(毎月二五日締切)の長距離勤務の日の右長距離係数制割増賃金と右近距離時間外割増賃金の支給額は、同表別記のとおりであって、右一ヵ月分をみれば、常に労働基準法所定額以上の割増賃金を支給済であるから、被告には原告らに対する右長距離勤務日の深夜時間外割増賃金未払金は存しない。
(四) よって、原告の請求債権は存しないから、被告はその請求に応じられない。
4 抗弁等に対する原告らの認否及び主張
(一)(認否)
抗弁等(弁済)(一)(労働基準法所定の割増賃金額の計算)については、(1)(長距離勤務の日の勤務開始時・終了時に関する労働慣行)は争い、(2)(長距離勤務の日の休憩時間)のうち、配送先が徳島・鳴門のとき乗船する和歌山・小松島間のフェリーの片道乗船時間が二時間であったこと、以外は争い、(3)(深夜時間外勤務時間の計算方法)は争い、(4)(原告らの長距離勤務の日の深夜時間外勤務に対する労働基準法所定の割増賃金額の計算関係)のうち、原告らの長距離勤務日におけるタイムカード上の入・退場時刻の打刻時刻、は認め、被告の主張を前提とした場合の労働基準法所定の深夜時間外割増賃金額についての被告主張の計算関係、は争わないが、その余は、争う。
同(二)(長距離係数制及び近距離時間外計算による支払)については、(1)(係数制による長距離運送勤務の日の賃金計算制度)の前段は認め、後段は争い、(2)(長距離係数制割増賃金と近距離時間外割増賃金の支払額)は認める(但し、近距離時間外割増賃金は当該日の深夜時間外勤務に対する割増賃金の趣旨で支払われる賃金ではない)。
同(三)(未払賃金の不存在)については、争う。
(二)(主張)
(1) 勤務時間について
被告における当時の所定勤務時間は、実際にも、就業規則(当時)のとおり午前八時から午後五時までという取扱が為されており、長距離勤務の場合に限ってこれを変更するような、特段の労働慣行は存しなかった。
原告らは、当時、長距離運送から帰社後、所定終業時前にタイムカードの打刻をして退場することはあったが、これは、被告によりトラックの運転を差止められた為、具体的な作業がないときは、被告の指示により、それぞれ社宅等に帰宅して次の指示を待っているのであるから、右退場後所定終業時までの時間は、被告の指揮下にある手待時間であって、当日の勤務から解放された終業後の自由時間ではなかった。
被告においては、当時、所定勤務時間帯以外の勤務はすべて時間外勤務として取扱う労働慣行となっており、被告が長距離勤務について主張するような勤務開始時から実働八時間を所定勤務時間とするような取扱は為されおらなかったのであり、このことは、当時のタイムカード(例えば、〈証拠略〉)における早出早退の場合の時間外勤務時間数の記載からも明らかである。
(2) 休憩時間について
被告主張の食事休憩時間、フェリー乗船中の休憩時間は、労働実態からみて、原告らが自由に利用できる時間ではなく手待時間その他の勤務時間というべきものであった。即ち、原告らの長距離運送の場合は、大型車で劇物を積んで運送するという特殊事情がある為、外にあっては、車両を操作していない時間であっても、車両の整備点検、積荷の安全管理を図る必要があって、常時、車両の監視・管理をしなければならず、また、配送先にあっても、荷卸の順番待の必要があって、無警戒に車両を離れることはできないのが実情であった。
また、就業規則所定の休憩時間一時間も、荷積等に追われて、満足にとれないのが当時の実情であったから、これも、すべて、実働時間というべきである。
(3) 近距離時間外割増賃金について
原告らが長距離運送から帰社した後に近距離運送に従事した場合に支給されたいわゆる近距離時間外割増賃金は、所定勤務時間内の近距離運送勤務に対する賃金であって、長距離運送後の近距離運送を奨励する為の特別な手当というべきものであるから、長距離勤務における深夜時間外割増賃金として支給された賃金ではなかった。
従って、原告らの当該長距離勤務の日の深夜時間外勤務に対する割増賃金の支給済分とすることができるのは、右長距離係数制割増賃金の支給額のみであって右近距離時間外割増賃金の支給額は、右支給済分とすることはできない。
(4) 被告主張の深夜時間外割増賃金差額計算について
被告主張にかかる原告らの長距離勤務の日の深夜時間外割増賃金について、既払額と労働基準法所定の額との差額に関する計算は、右のとおり、所定勤務時間帯、休憩時間数、近距離時間外割増賃金を深夜時間外割増賃金の支給済分としたこと、等の諸点で、前提を誤っており、これらを訂正して計算すれば、原告ら主張のとおりの未払金が存する。
(三) よって、被告の抗弁等は失当であって原告らの請求債権の存否を左右するものではない。
(四) なお、後記5(二)被告の反論については、(4)のうち、被告の予備的主張を前提とした場合の計算関係が被告主張のとおりとなること、を除き、その余は、争う。
5 右原告ら主張に対する被告の認否及び反論
(一)(認否)
右原告ら主張は、争う。
(二)(反論)
(1) 被告において、当時、長距離勤務日の勤務の終了時については、就業規則所定の終業時前であっても、長距離運送から帰社したとき(帰社後に近距離運送(時間外勤務扱い)に従事するときはその終了時)にその日の勤務終了とし、その後の時間は、被告は原告らに自由に利用させていた。
(2) 原告らは、長距離運送に従事中、前記食事休憩時間等を、少なくとも、被告主張の時間のとおり取っていた。
このことは、例えば、原告らの当時の長距離勤務のうち、原告河野の昭和五三年二月における七回の長距離勤務について、チャート紙(タコグラフ)・作業指図書に基づき整理(〈証拠略〉)すると、長距離運送中(帰社後の近距離運送中の分は含まない)に平均一時間二一分の休憩時間を取っており(なお、二月は冬場で一年のうち最も走行条件の悪い月であって、他の月はもっと余裕があった)、原告らの他の長距離勤務においても右例並の相当の休憩時間を取っていたとみられることからも明らかである。
(3) 和歌山・小松島間のフェリー乗船中の休憩時間を片道一時間五〇分とする取扱は、実情に適したものである。
即ち、右フェリー航行中は、運転手が車両甲板に立入ることは禁止されており運転手は、車両を監視している必要はなく、客室で自由に休憩できるのであり、また、下船準備等に要する時間も十分余裕をみて一〇分としてある。
(4) なお、被告は原告らの前記長距離勤務の日の深夜時間外割増賃金については、労働基準法所定の計算による割増賃金額以上を支給済であることは、前記3被告の抗弁等(三)のとおりであるが、仮に、原告らの休憩時間に関する主張に従って、長距離勤務日に休憩時間がなかったものとして、前記タイムカードに打刻された入場時刻から退場時刻までの間をすべて実働時間と看なして、労働基準法所定の深夜時間外割増賃金額を算定した場合であっても、その計算関係は、別紙割増賃金表(被告予備的計算分)所定欄記載のとおりであって、被告は、原告らに対し常に、労働基準法所定額以上の割増賃金を支給済(一部、当該日についてみれば不足額が生ずる(右表差額欄で▲印を付したもの)場合もあるが、これについても、当該日を含む一ヵ月分(毎月二五日締切)についてみれば、右表に記載のとおり原告主張外の当該月の長距離勤務日の分(右表日にち欄に※印を付したもの)と合わせれば、いずれも、当該月で不足は生じない)である。
三 証拠(略)
理由
一 争点の概要
本訴は、原告らが被告において長距離運送勤務に従事した日の深夜時間外割増賃金の支給につき、労働基準法所定の計算による深夜時間外割増賃金額に達しない部分の有無をめぐって争われるものであるところ、原告らと被告との雇用関係(請求原因(一)冒頭)、原告らの長距離運送勤務への従事(請求原因(二)前段)、原告らの賃金が日給制であったこと、原告らの長距離勤務の日の日給額(以下請求原因(一)(1))、原告らの長距離勤務の日のタイムカード上の入・退場時刻、及び右入場時刻が当該長距離勤務日の勤務の開始時刻であったこと(請求原因(二)後段前部、被告の抗弁等(一)(1)の一部)、当時の被告就業規則上の所定勤務時間・休憩時間の定め(請求原因(一)(2)の一部)、右長距離勤務日の賃金として、当時、被告が原告らに対し、右所定日給の外に支給した長距離係数制割増賃金と近距離時間外割増賃金の額(抗弁等(二)(2))、以上の点は、当事者間に争いがない。
従って、本訴の主要な争点は、
1 労働基準法所定の計算による深夜時間外割増賃金額の算出の前提となる当該長距離勤務日の実働時間に関し、
(一) 長距離勤務日の勤務時間、特に、タイムカード上の退場時刻が就業規則所定終業時の午後五時前であるとき、右退場時刻と所定終業時との間の時間を、勤務時間というべきか否か
(二) 長距離勤務日の原告らの勤務における被告主張の休憩時間の有無
2 深夜時間外割増賃金の支給額に関し、
(一) 長距離勤務終了後に近距離運送に従事した場合に支給された近距離時間外割増賃金が、当日の深夜時間外勤務に対する割増賃金の一部といえるか否か
(二) 支給額は、日単位でみるか、月単位でみるか
3 右1、2の判断を前提とした、右長距離勤務日の原告らの深夜時間外割増賃金につき、労働基準法所定の割増賃金額と被告支給済の右割増賃金に相当する賃金額との比較による、支給不足分の有無と存する場合の金額の算定
との点であるといえる。
よって、右争いのない事実を前提に、右争点に添って以下順次判断する。
二 勤務時間(争点1(一))について
1(終業時)
(人証略)によれば、被告において、当時、原告らが、長距離運送から帰社後(更に、近距離運送に従事したときは、その終了後)就業規則(当時)所定の終業時前に、タイムカード打刻のうえ、退場帰宅するのが通常であり、その時は、右退場時以降右所定終業時までの間は、実際には、トラック運転等被告の業務に従事することはなかった、と認められる。
これにつき、原告らは、長距離勤務日の右退場後所定終業時前の時間は、手待時間であって、勤務時間に算入されるべきである、との旨主張するが、右原告河野本人尋問の結果(第一回)、及び(人証略)の証言の一致するところによれば、被告は長距離勤務に従事した原告らに対し、右退場後所定終業時までは次の作業指示に備えて自宅待機するよう指示することなく、自由にさせており、原告らも、右退場時にその日の勤務(残業も含めて)終了と考えており、以降所定終業時まで自宅待機するということもなかった、と認められるから、原告らの長距離勤務日の右退場後所定終業時までの時間は、手待時間等の勤務したといえる時間ということはできない。
従って、原告らの長距離勤務日における右退場後所定終業時までの時間は、勤務時間ではなく、原告らのその日の勤務は、前記就業規則の終業時の定めにかかわらず、実際には、右退場時、即ち、右タイムカード上の退場時刻、に終了していた、というべきである。
2(所定勤務時間)
(一) 被告において、当時、原告らの長距離勤務日の勤務開始時刻が、タイムカード上の入場時刻であったこと、は、前記のとおり、当事者間に争いがない。
従って、労働基準法所定の深夜時間外割増賃金額の計算の基礎となる実働時間は、当該勤務日の実際の勤務開始時から勤務終了時までの時間から、当該時間中の実際の休憩時間を控除した、時間数というべきである。
(二) これに関し、原告らは、当時、被告においては、所定勤務時間帯以外の勤務、即ち、午前八時前または午後五時後の勤務、はすべて時間外勤務として扱うという労働慣行があった、との旨主張するので、この点につき検討する。
右検討の前提となる事実として、前記1の認定事実及び(証拠略)によれば、次の(1)乃至(5)の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(1) 被告においては、当時、原告らが、長距離運送に従事しない勤務日に、就業規則所定時に比し、早出早退をした場合、所定始業時である午前八時前の勤務時間を時間外勤務とする取扱をしており、勤務開始時から実働八時間を所定勤務時間とする取扱はしていなかったこと。
(2) 被告において、当時、原告らが、長距離勤務に従事するときは、遠距離の配送先の荷受時に荷が届くよう運送する業務の必要上、就業規則(当時)所定の始業時前(多くは午前五時前)に出発し、所定終業時前に帰社し、この間に既に当日の所定勤務時間数以上を勤務しているのが、常態であって、近距離運送とは実際の勤務時間帯を異にしていたこと。
(3) 被告において、当時、右長距離勤務については、原告らが当該長距離運送から帰社したとき(通常、午後五時前)にその日の所定の勤務を終了したものと扱われ、その後は就業規則所定の終業時前に退場しても早退扱いされず、もし近距離運送の勤務に従事すれば、時間外勤務として扱われたこと。
(4) 被告においては、後日、右長距離勤務の実態に合せて就業規則を改定し、長距離勤務の場合の所定勤務時間を当該長距離運送への出発時(即ち、タイムカードに打刻された入場時刻)から実働八時間とする等、との旨規定したこと。
(5) 被告において、当時、右長距離勤務日の長距離勤務分の賃金(帰社後の近距離運送勤務分を除く)については、配送先ごとに予め設定してある係数を所定日給に乗じた額とするいわゆる長距離係数制割増賃金制度をとっており、深夜時間外割増賃金について労働基準法所定の計算によっていた近距離運送勤務日の賃金とは異なる取扱をしていたこと。
そして、右(1)乃至(5)の事実によれば、長距離運送の勤務実態が近距離運送の場合と相当に異なっており、これに応じて、勤務時間・賃金の取扱も相当の差異がみられるのであって、右(1)の近距離勤務日の取扱を直ちに長距離勤務日にあてはめることはできず、その他、被告主張の右労働慣行を認めるに足る的確な証拠もないうえ、右(2)乃至(5)の事実によれば、長距離勤務日の勤務時間については、就業規則の規定にかかわらず、長距離運送への出発時を所定勤務時間の開始時とし、所定勤務時間帯は始業時から実働八時間とする、との旨の労働慣行が確立していた、とみられるのであって、被告主張の就業規則(当時)所定の勤務時間帯は長距離勤務日については、あてはまらないから、これらの点に照らし、右被告の主張は失当である。
(もっとも、労働基準法所定の時間外割増賃金の計算については、現実の実働時間数が基礎になるのであって、そのうち、どの部分が所定勤務時間帯でどの部分が特別に時間外勤務扱いされたか等は、直接関係のないところではある。)
三 休憩時間(争点1(二))について
1(食事休憩等)
(一) 弁論の全趣旨及び原告河野本人尋問の結果(第二回)によれば、被告は、当時、原告らトラック運転に従事する従業員に対し、社外で長距離運送に従事中の食事休憩時間として、往復走行距離に応じて三〇分又は一時間の休憩時間を与える、ということになっていたこと、が認められる。
そうであれば、特段の事情のない限り、原告らも、長距離勤務において、右食事休憩時間として、車両を停止させて食事休憩等をしていた、とみるべきところ、右特段の事情についての的確な主張立証はなく、却って、成立に争いのない(証拠略)(当時の原告河野の長距離勤務日一一例についてのタコグラフ)によれば、現に、原告河野の右例の場合、長距離の配送先への往復途中で三〇分程度の車両停止時間が見られるのであり、これらの点に鑑み、原告らは、当時、長距離勤務において、通常は右食事休憩時間(それが、休憩時間に価するか否かは一まず措く)を取っていた、と推認すべきである。
右推認に反する原告河野本人尋問の結果(第二回)の部分は、措信できない。
(二) ところで、原告らは、右食事休憩時間は、車両の監視等をしなければならなかったから、自由使用のできる本来の休憩時間とはいえない、との旨主張するので、この点につき、検討する。
弁論の全趣旨、(証拠略)によれば、被告における原告らの当時の長距離運送の勤務は、往復三〇〇キロメートル以上の長距離の配送先まで、大型トラックを一人(一定距離以上例えば福井への配送は二人乗務)で運転して、劇薬(苛性カリ、苛性ソーダ等)を配送するものであった、と認められる。
そして、右勤務内容に照らすと、原告らは、右長距離勤務で社外にあっては、常に、右運転車両及び積荷の管理保管の責任を負っていた、というべきであり、右責任を免除されたとみられる特段の事情のない限り、右食事休憩時間であっても、右管理保管上必要な監視等を免れえなかったもの、と解される。
そうであれば、本件では、後記フェリー乗船中の場合を除き、右食事休憩時間中右管理保管の責任を免除された(或いは自ら放棄した)といえる特段の事情についての主張立証はないから、社外における右食事休憩時間については、原告らは、その間も、車両についての一定の監視等の業務に従事していたとみるべきである。
(なお、二人乗務のときには、一方が右責任を免除されていた可能性は存するが、二人の勤務分担等勤務の実情が不詳である以上、当然に、交互に実質的な食事休憩時間を取っていた、とまでいうことはできない。)
(三) 従って、右食事休憩時間を勤務時間から控除すべき休憩時間と認めることはできない。
2(所定内休憩時間)
(一) 被告において、就業規則上、所定内休憩時間は一時間と定められていたこと、は前記のとおり、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右所定内休憩時間は、正午から午後一時までの間の昼休みとされていたこと、が認められる。
(二) これについて、原告らは、右昼休みの時間帯は、原告らが、被告の社内社外のいずれにあっても、その時間を自由に使用できない実情であったから、実質的には休憩時間といえない、との旨主張するので、この点につき、検討する。
まず、右昼休みの時間帯に原告らが被告の社内にあったときについてみると、(証拠略)によれば、当時の原告河野の長距離勤務についての一一例では、長距離・近距離の運送から帰社した時刻にかかわらず、午後一時には被告の業務は動き出す関係上、午後一時以降一人休憩していられる状況ではなく、現に、遅くとも一時半頃までには、次の近距離運送に出発しており、また、正午前に帰社したときは午後一時前に、次の近距離運送に出発した例もあり、右近距離運送の為の荷積に通常二、三〇分は要するので、結局、右昼休みの時間帯に帰社していても、休憩時間としては、全く取れない場合の方が多く、取れても、長くて三〇分程度しか取れなかった実情であったことが、認められ、特段の反証もないから、これが、当時の、被告社内における昼休みの一般的な実情であった、というべきである。
そうであれば、問題となる長距離勤務の日の昼休み時間帯の実情につき、具体的反証のない限り、原告らは、当該長距離勤務日の右昼休み時間帯に被告社内にあっても、休憩時間を取っていなかった、との推定が働くというべきである。
また、右昼休みの時間帯に、原告らが、社外で長距離・近距離を問わず運送業務に従事しているときについてみると、この場合は、たとえ、原告らの食事或いは配送先の昼休み等の事情で車両を停止させていたとしても、原告らが、車両の管理保管の責任を免除された(或いは自ら放棄した)といえる特段の事情が認められない限り、右停車中の時間を休憩時間等の勤務時間から控除すべき時間と為しえないこと、は前記1(二)食事休憩時間の場合と同様である。
(三) 従って、当該長距離勤務日における右昼休みの時間帯の原告らの勤務の実情につき、右反証乃至特段の事情の主張立証のない本件では、原告らは、当該長距離勤務日には、社内社外のいずれにあっても、右昼休みの時間帯に休憩時間を取っていなかった、といわざるを得ない。
3(フェリー乗船中の休憩時間)
(一) 弁論の全趣旨、(人証略)によれば、原告らが徳島・鳴門への長距離運送に従事するときは、往復和歌山・小松島間の南海フェリーを利用するところ、その航行時間は片道二時間で、右航行中は、トラックはフェリー内の所定の位置に停車させて置きトラック運転を行なうことはなかったこと、が認められる。
(二) しかるところ、右フェリー航行中の時間について、原告らは、車両積荷の保管責任上、監視を怠れないから、勤務時間である、との旨主張し、被告は、車両積荷の保管は船員が行ない、原告らの監視等は不要であったから、下船準備一〇分間以外は、休憩時間である、との旨主張するので、この点につき、検討する。
(証拠略)によれば、同航路のフェリーでは、車両の積み卸しはすべて船長らの指示に従うこととされ、船内では、車両は乗客と区別された車両甲板に置かれ、航行中は、盗難と火災の予防の為、運転者といえど、車両甲板に居残りや立入りを禁止されており、車両甲板で運転者が監視するような例はなく、このような取扱は、本件当時から変わりないこと、同航路のフェリー船内には、客室が整備されていて、運転者が、航行中仮眠することも、十分可能であること、以上の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。
右事実によれば、右和歌山・小松島間のフェリー船内では、車両積荷は、船長が責任を持って保管し、原告ら運転者は、車両の監視を要せず、一定の設備のある客室で自由にすることができた、といえるから、下船準備の為に要すると、被告の認めている一〇分間を除く同フェリー航行時間中の時間は、原告ら車両運転者にとっては休憩時間であった、というべきである。
(三) 従って、原告らの徳島・鳴門への長距離勤務においては、右フェリー乗船時間中往復計三時間四〇分間は、休憩時間として、当該日の勤務時間から控除すべきである。
四 近距離時間外割増賃金(争点2(一))について
1 原告らが長距離勤務日に長距離運送から帰社後に近距離運送の勤務に従事したときは、当該日の賃金として、所定日給、長距離係数制割増賃金の外、右近距離運送の勤務時間を時間外勤務と扱って労働基準法所定の割増計算をして算出した額の賃金(近距離時間外割増賃金)が支給されたこと、は前記のとおり、当事者間に争いがない。
そして、右近距離時間外割増賃金は、右近距離運送勤務に対して支給されたものといえるところ、右長距離運送から帰社後の近距離勤務は、右帰社により当該日の所定の勤務を一応終了したとされた後で、かつ、長距離運送に出発時から実働八時間という長距離勤務日の所定勤務時間帯外に、行なわれるものであり、原告らも残業との認識であったこと、に照らせば、右近距離勤務は時間外勤務であるといえるから、結局、右近距離時間外割増賃金は、当該日の時間外勤務に対して支給された時間外割増賃金の一種である、というべきである。
2 これに対して、原告らは、右長距離勤務後の近距離勤務に対する右賃金は、所定勤務時間内に行なわれる近距離勤務に対する特別の歩合給であって、当該日の長距離勤務についての時間外割増賃金に充当しうる性質の賃金ではない、との旨主張するが、長距離勤務日における所定勤務時間帯は、右のとおり、労働慣行によって、就業規則(当時)所定のものから変更されていて、右近距離勤務が行なわれるのは、右変更された後の所定勤務時間帯以外の時間であって、右原告らの主張は、この点で既に根拠とする事実を欠くうえ、その外、右1の認定を覆すに足る主張立証もないから、右原告らの主張は、採用できない。
五 割増賃金計算の単位期間(争点2(二))について
1 原告らの当時の賃金が日給制であったことは、前記のとおり当事者間に争いがなく、これによれば、原告らの深夜時間外割増賃金についても、各勤務日ごとに支給すべき額が計算され、これが当該日の賃金として不足なく支給されていなければならない、というべきである。
2 この点につき、被告は、当時の原告らの賃金が毎月二五日締切で月毎にまとめて支給されていたから、右月単位でみて、深夜時間外割増賃金の支給総額が、各日毎に労働基準法所定の計算によって算出した深夜時間外割増賃金額の合計額を、下回らない限りは、当該月の深夜時間外割増賃金の支給不足分は生じない、との旨主張するところもあるが、右のとおり、原告らの当時の賃金が日給制であった以上、たとえ、支払が月単位にまとめて為される場合であっても、計算はあくまで日単位で為すべきであり、労働基準法所定の計算額を超える深夜時間外割増賃金を支給した日についても右超過分は原告らと被告との間の雇用契約所定の支給分であって不当利得分でもないから、被告主張のように月単位でみて、支給すべき額合計を下回らないだけの合計支給額があれば足りる、とすることはできない。
六 割増賃金の支給不足分(争点3)について
1 そこで、以上の判断及び前記争いのない事実を前提にして、原告ら主張の長距離勤務の日毎について、深夜時間外割増賃金が、労働基準法所定の計算による額まで、支給されていたか否か、及び、不足分のあるときの不足額、の点を、判断する。
2 ところで、原告らが右支給不足分があると主張する長距離勤務日について、当時、被告が当該原告に対し深夜時間外割増賃金に相当する賃金として支給した賃金は、前記四の判断のとおり、前記長距離係数制割増賃金と近距離時間外割増賃金であるところ、その各支給額については、前記のとおり、当事者間に争いがないところである。
そして、当該長距離勤務の日毎について労働基準法所定の計算による深夜時間外割増賃金額を算定するにあたって基礎となるのは、当該日における当該原告の日給額と実働時間数であるが、右日給額については、前記のとおり当事者間に争いがなく、右実働時間数については、その勤務開始時は、前記のとおり争いがないタイムカード上の入場時刻、その勤務終了時は、前記二の判断のとおり、タイムカード上の退場時刻(その記載時刻自体は争いがない)、であって、その間の休憩時間に関して種々争いがある(前記三の判断は一まず措く)ところである。
3 しかるところ、被告は、右2を前提にして、右タイムカード上の入・退場時刻間をすべて実働時間と仮定した場合における右各長距離勤務日の労働基準法所定の深夜時間外割増賃金額と右支給額(長距離係数制割増賃金と近距離時間外割増賃金との合計額)とその差額とについての計算関係を、別紙割増賃金表(被告予備的計算分)のとおり主張しており、弁論の全趣旨によれば、原告らも、右2を前提にした場合の計算関係については明らかに争わないと認められるので、以下、右計算関係(多少の違算は存するが以下の検討を左右する程のものは見当たらない)に基づき、検討を進めることとする。
4 まず、右計算上、支給不足額が生じなかった長距離勤務日、即ち、別紙割増賃金表(被告予備的計算分)の所定の差額欄の数値の前に▲を付してないもの、に関しては休憩時間についてのこれ以上の検討を要せず、既に、当該長距離勤務日の深夜時間外割増賃金として、当時、労働基準法所定の計算額以上支給済であること、が明らかである。
そして、原告田口については、同表所定差額欄はすべて不足額が生じていないから、この段階で、右割増賃金の支給不足分は存しない、ということができる。
5 次に、右計算上、支給不足額が生じた原告らの長距離勤務日、即ち、別紙割増賃金表(被告予備的計算分)の所定の差額欄の数値の前に▲を付したもの、に関しては、その内、フェリーに乗船するもの、即ち、長距離の配送先が徳島・鳴門であるもの、については、前記三3の判断のとおり、フェリー乗船時間中往復三時間四〇分間は休憩時間として、当日の実働時間から控除されるから、右に該当する原告らの長距離勤務日につき、右控除時間分の労働基準法所定の計算方法による時間外割増賃金額を算定すると、別紙フェリー関係割増賃金差額計算表の所定欄記載のとおりとなり、これは、別紙割増賃金表(被告予備的計算分)の所定の差額欄に記載された右計算上の支給不足額を、いずれも上回るから、右長距離勤務日に関しては、これ以上の検討を要せず、既に、当該長距離勤務日の深夜時間外割増賃金として、当時、労働基準法所定の計算額以上支給済であること、が明らかである。
6 ところで、原告らの長距離勤務日のうち、右いずれにも該当しない日、即ち、右表所定の差額欄の数値の前に▲を付したもので、長距離の配送先が徳島・鳴門以外のもの(なお、原告赤松の長距離勤務日については、長距離の配送先が不詳であるが、その係数等弁論の全趣旨に照らし、少なくとも、右配送先が徳島・鳴門以外であることは認められる)、に関しては、前記三1、2の判断のとおり、本件主張立証上は、右タイムカード上の入・退場時刻間に、休憩時間といえる時間が認められず、従って、この間はすべて実働時間として扱うこととなるから、これらについては、当時、当該長距離勤務日の深夜時間外割増賃金として支給された額は、労働基準法所定の計算額に達しておらず、支給不足額が存することとなる。
そこで、これらについて、前記計算関係を基礎に、必要な違算の訂正をして、右支給不足額を計算すると、別紙深夜時間外割増賃金支給不足分明細表のとおりの額となる。(なお、右明細表記載分のうち、昭和五三年六月三日の原告河野と原告松本との四日市への長距離勤務(入・退場時刻からみて右二人で乗務したとみられる)は、その所要時間及び支給不足額に鑑み、何らかの特別の事情が存したとみられるが、その主張立証がないから、他と同様に扱うこととする。)
七 結論
1 以上によれば、本件主張立証上、原告田口についてはその主張債権の存することを認め得ず、その余の原告らについては、被告に対し、その主張にかかる深夜時間外割増賃金未払金のうち、別紙深夜時間外割増賃金支給不足分明細表記載の分の未払賃金(その合計額は、原告長浜が金三〇六五円、原告岩永が金一万二六〇六円、原告藤川が金五七八六円、原告河野が金七五五三円、原告松本が金七二三〇円、原告赤松が金二万二二〇六円、原告山本が金三五〇八円、となる)と、右各未払賃金合計額についての各遅延損害金(訴状送達の翌日であることが一件記録上明らかな昭和五四年四月八日起算、民法所定の年五分の割合によるもの)との限度で、それぞれ、その支払を求める権利を有する、ということができる。
2 そして、右割増賃金未払については、被告において、特に酌むべき事情も見当たらないから、被告に対し、右未払金相当額の労働基準法一一四条所定の附加金を課すのが相当である。
3 よって、原告田口の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、その余の原告らの本訴各請求は、右1の未払賃金とその遅延損害金、及び右2の附加金の各支払を被告に対し求める限度で理由があり、その余の請求は理由がないから、右理由の有無に従い、それぞれ一部認容一部棄却とし、訴訟費用の負担については、被告の敗訴部分が僅少であることに鑑み、全額原告らの負担とすることとし、仮執行宣言については、右認容額、立証の程度、附加金の性格等を勘案して、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 千徳輝夫)